【箱庭】


 鬱憤と寂しさに包まれたような、そんな空気の漂う日だった。


 一帯を襲う湿気で暑苦しいはずなのに、胸の裏には不思議と大きな穴が空いているように感じる。
 視界の端で動く気配と微かな布音に導かれて、僕はその正体に目を移した。

 もそもそ、もそ。もそ。

 白とも銀ともつかない色のくせっ毛はこれでもかと絡まりあい、顔をすっぽりと隠してしまっている。
 寝相が悪かったからか、お気に入りの髪飾りを踏んづけてしまっていた。

「はじめまして。」

 聞こえるはずもないのに、小さな画面に向かってさも親しげに呟く。
 聞こえるはずもないのに、彼女は少しだけ間を置いた後に微笑んだ。


 鬱憤と寂しさに包まれたような、そんな空気の漂う日。


 そういう日に、彼女は再び生まれた。
 

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